年別アーカイブ: 2008年

Bags

ACACair02_Photo by Tadasu Yamamoto _rqs
およそ100年前、青森のこの地方で使われていた袋とともに、Bags を展示しました。 それらの古い袋は繰り返し継ぎ接ぎされ、中身がこぼれないように修復されています。 まだ、布製品が貴重で、簡単に捨てたり出来なかった時代のことです。
ACACAIR-08_Photo by Tadasu Yamamoto_rqs
液体をすくうようにした手のかたちが刺繍されています。 刺繍の裏側から垂れた糸は、再びすくいとられるようにして、連鎖していきます。

 

 

層の機

図案モチーフ

紺地花樹双鳥文きょうけち(染物、正倉院蔵、日本8世紀)
Stand cover, silk with kyokechi-dyed designs of flowering trees and paired-birds, Shōsō-in temple (Japan, 8C)

更紗文様(インド、18世紀)
Calico pattern (India,18C)

「聖テレジアの法悦」ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(イタリア、1647-1652年)
Ecstasy of Saint Teresa, Baroque sculpture, Gian Lorenzo Bernini (Italy, 1647-1652)

「幼いディオニュソスを抱くヘルメス」プラクシテレス(古代ギリシャ、年代不詳)
Hermes and the Infant Dionysus, Praxiteles (ancient Greece, Unknown)

菩薩半跏像(中宮寺蔵、日本、飛鳥時代、78世紀)
Miroku Bosatsu, Buddha statue, Chūgū-ji temple (Japan, 7-8C)

水月観音半跏像(東慶寺蔵、日本、鎌倉時代、13世紀)
Suigetsu-Kannon, Buddha statue, Tōkei-ji temple (Japan, 13C)

亀甲花菱文箔打掛(高台寺蔵、日本、16世紀)
“Uchikake” outer garment featuring hexagonal and diamond patterns created in embroidery and pressed gold leaf, (Kōdai-ji temple, Japan, 16C)

壁紙文様(フランス、19世紀)
Wallpaper pattern (France, 19C)

グアテマラの衣服、襟部分(グアテマラ、年代不詳)
Collar part of local clothes (Guatemala, Unknown)

袖付貫頭衣の飾り(エジプト、コプト後期、910世紀)
Tunic with flower ornaments, Coptic textile (Egypt, 9-10C)

袖付貫頭衣(エジプト、コプト後期、8世紀)
Tunic, Coptic textile (Egypt, 8C)

1662年の奉納画」フィリップ・ド・シャンパーニュ(Ex-Voto de 1662、バロック絵画、フランス、1662年)
Ex-Voto de 1662, Baroque painting, Philippe de Champaigne (France, 1662)

ロザリオの聖母」ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ(Madonna of the Rosary、バロック絵画、イタリア、1607年)
Madonna of the Rosary, Baroque painting, Michelangelo Merisi da Caravaggio (Italy, 1607)

層の絵 – 縫合

図案モチーフ

左部分
(背景)
袖付貫頭衣(エジプト、コプト後期、7世紀)
Tunic, Coptic textile (Egypt, 7C)

四騎獅子狩文錦(法隆寺蔵、日本、7世紀 )
Nishiki (brocade) with archers chasing lions (Horyu-ji Temple, Japan, 7C)

紺地花樹双鳥文きょうけち(染物、正倉院蔵、日本8世紀)

(紺地花樹双鳥文 夾纈施几褥 こんじかじゅそうちょうもん きょうけちあしぎぬのつくえのじょく)
Stand cover, silk with kyokechi-dyed designs of flowering trees and paired-birds (Shōsō-in temple, Japan, 8C)

(幽霊)
ルイ 14 世の肖像、イアサント・リゴー(ルーブル美術館蔵、フランス、1701 年)
Louis XIV, Hyacinthe Rigaud (France, 1701)

「ヘントの祭壇画」(ベルギー、15世紀)
Ghent Altarpiece (or the Adoration of the Mystic Lamb),  Hubert and Jan van Eyck (Belgium, 15C)

右部分
(背景)
袖付貫頭衣(エジプト、コプト後期、7世紀)
Tunic, Coptic textile (Egypt, 7C)

ボーダー ボビンレース(イタリア、17世紀)
Border bobbin lace (Italy, 17C)

ダロウの書、渦巻文様のカーペット頁(アイルランド、7世紀)
Book of Durrow, carpet page (Ireland, 7C)

壁紙の文様(フランス、19世紀)
Wallpaper pattern (France, 19C)

(幽霊)
水月観音半跏像(東慶寺蔵、日本、鎌倉時代、13世紀)
Suigetsu-Kannon (Buddha statue) (Tōkei-ji temple, Japan, 13C)

菩薩半跏像(中宮寺蔵、日本、飛鳥時代、78世紀)
Miroku Bosatsu, Buddha statue (Chūgū-ji temple, Japan, 7-8C)

Tangent

機能する(或いはしない)袋

(アーティストステイトメント、国際芸術センター青森の展覧会のために)
袋の底が破けて中身がこぼれだすようなイメージが、繰り返し立ち現れます。
複数のなにものかをひとまとめにし、区別し、名付け、持ち運び、管理することのできる袋は、たとえば私たちのからだの延長とも言えるでしょう。
しかし、「うまくいく」はずだった袋はその底がたびたび破れ、持っているはずだったもの、持ち続けていたかったもの、名前を与えたものたちが、ぼろぼろとこぼれ落ちていきます。
さて、今回私は幸運にも、昔この地域で使われていた布製の袋、ふとん、こぎん刺しを見せてもらうことができました。まだ布がとても貴重だったころの、売るためにではなく自分たちで使うために作っていたころのものです。
幾重にも、何代にも渡ってつぎはぎされ修復された袋を見ていると、わたしたちがもう思い出せないであろう何かが、そのなかに入っているように思われました。さらに、破ける底を何度も補修しようとしたその痕跡は、先の袋のイメージ(名前の分割からこぼれ落ちてしまうものに姿を与えようとすること)と、重ね合わされました。
理想の袋があるとすれば、一度に選ぶことができない複数の可能性と、名づけることのできない何ものかの気配に、とりあえずの形を与えるためのものでしょう。しかしそれは同時に、底が抜けてあふれ出す「不可能性のふくろ」です。瞬時にかすめ、たちまちのうちに消え去ってしまう、機能しない袋でもあるのです。

手塚愛子
2008年 青森にて