同一のふたつの織物(H&Mのスカーフ)#1

2011 年

H&Mのスカーフから引き抜いた四種類の糸

250 x 300 cm (スカーフのサイズ各 182 x 72 cm)

展覧会

プリズム・ラグ 手塚愛子の糸、モネとシニャックの色」展、アサヒビール大山崎山荘美術館(京都)2011

the New Contemporaries」京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(アクア)(京都)2012

同一のふたつの織物(H&Mのスカーフ)#1

この作品の素材は、私がロンドンのH&Mで購入した、全く同一の二枚のスカーフです。マルセル・デュシャンの死後に発見された彼のメモ群の中に「アンフラマンス(inframince)※」に関する記述がありますが、そのメモの35番目(裏)、「発生上の分類(二本の木、二艘の舟)からもっとも同一な「型打ち」にまでいたる既視物の粗雑な概念がある。双子を二滴のしずくに似させているような言語上の一般化を便宜的に受け入れてしまうより、二つの『同一物』 を分ける極薄(アンフラマンス)の間隔を通りぬけようとするほうがいい。 」という文章があります。つまり双子がどれだけ似ているかを語るのは退屈だが、全く同じ型から作られた同一物の二つの間の違いを考えることの方が面白い、ということです。私はこの文章に触発され、そのオマージュとしてこの作品は制作されました。

「アンフラマンス」inframince はマルセル・デュシャン(1887~1968)の造語である。 フランス語の infra(下部/下方)と mince(薄い)が合わさって作られた「inframince は、日本語では「極薄」と訳され、それは「薄さの限界を下まわる薄さ、人間の知覚閾(感知できるかできないかの境目)を超えた薄さ」のことを意味している。単に「極めて薄い」 というのではなく、ちょうど赤外線が赤の限界を超えた、色としては知覚できない色であるのと同じように、「inframince」は「薄い」という知覚さえ失われる極限での薄さ、ということを表している。 この定義し難い概念、アンフラマンスを、デュシャンは以下のように表現している。

(メモ第1)可能なものは極薄であるいく本かの絵具チューブが、一点のスーラになる 可能性は、極薄としての可能なものの具体的な「説明」である。 可能なものは何かになることを含んでいるひとつのものから他のものへ の移行は、極薄において起こる。(以下略)

(メモ第4)(人が立ったばかりの)座席のぬくもりは極薄である。

(メモ第35、表)極薄な分離同じ鋳型で型打ちされた二つの形は、たがいに極薄の分離値だけ異なる。 すべての「同一物」は、どれほど同一であっても、(そして同一であれば あるほど)、この極薄の分離的差異に近づく。(以下略)

Photo by

来田猛

この作品を展示した展覧会

  • Group Exhibition
    2012年3月3日 - 25日
    京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(アクア)(京都)