およそ100年前、青森のこの地方で使われていた袋とともに、Bags を展示しました。 それらの古い袋は繰り返し継ぎ接ぎされ、中身がこぼれないように修復されています。 まだ、布製品が貴重で、簡単に捨てたり出来なかった時代のことです。
液体をすくうようにした手のかたちが刺繍されています。 刺繍の裏側から垂れた糸は、再びすくいとられるようにして、連鎖していきます。
以下の53個の言葉が刺繍された袋の底が破けて、中身がこぼれ出しています。
わたし(私)、さが(性)、おきて(掟)、わけあう(分け合う)、ちから(力)、よげん(予言)、ふくじゅう(服従)、ゆうあい(友愛)、ひとしい(等しい)、はんちゅう(範疇)、かんせい(完成)、とみ(富)、くに(国)、あく(悪)、とうち(統治)、あい(愛)、とうごう(統合)、おとな(大人)、どういつせい(同一性)、さけめ(裂け目)、てらす(照らす)、こくみん(国民)、しょゆう(所有)、こくせき(国籍)、じゅそ(呪詛)、かみ(神)、とき(時)、じゆう(自由)、ごうり(合理)、しほん(資本)、おまじない、じこ(自己)、なまえ(名前)、あなた、きげん(機嫌)、さく(裂く)、くぶん(区分)、さ(差)、かがく(科学)、こゆう(固有)、しゅたい(主体)、けつぞく(血族)、しゅどうけん(主導権)、きのう(機能)、ゆるし(赦し)、かぞく(家族)、はくあい(博愛)、いくつものかみ(幾つもの神)、うそ(嘘)、いえ(家)、ぜったいてき(絶対的)、あきらか(明らか)、けっとう(血統)
袋の底が破けて中身がこぼれだす、あるいは袋に入らずに溢れてしまうようなようなイメージが、いつしか私の頭のなかに繰り返し立ち現れます。
複数のなにものかをひとまとめにし、区別し、名付け、持ち運び、管理することのできる袋は、 たとえば私たちのからだの延長とも言えるでしょう。 しかし、「うまくいく」はずだった袋はその底がたびたび破れ、持っているはずだったもの、持ち 続けていたかったもの、名前を与えたものたちが、ぼろぼろとこぼれ落ちていきます。 —-> 続きは「機能する(或いはしない)袋」(2008年)へ。