謎解きのようなこの「読む織物」には、鎖国以前の欧州の織物、出島の時代に作られた地図、オランダ東インド会社のロゴ、隠れキリシタンの更紗模様、江戸ー明治期の作者不明のスケッチ、明治の開国時の英語辞書、欧州の時制を学ぶための時計、意思疎通のための絵文字、言葉によってAI画像生成されたイメージ、などが散りばめられている。
この織物製作を依頼した、京都の西陣織の職人が面白いことを教えてくれた。織物の裏側に現れる色は、表側に最も見えてほしくない色を配置するのだという。例えば黄色い「絵文字」を邪魔する紫色が、絵文字の裏側にくるように。人の肌の色についてもそのようなプロセスで裏側では変化する。織物をめくって裏側を見た時、表には出てきて欲しくない色が配置されている。それは私がずっと扱ってきたテーマを体現するような構造だ、と直感的に気づき、織物の裏側を敢えて見せるということに至った。
このインスタレーション作品は、左右に同一の織物の表と裏がそれぞれ配置される。それら左右の織組織が解体され、中央部分において緩い籠状の組織が再構築される、という作品である。作品コンセプトとステートメント
「不在の代理となる表現が結ぶもの - 物語を切開し縫合すること、組み替え、語り直すこと」Text by 今泉岳大(岡崎市美術博物館学芸員)
Photo by
Yuki Moriya