二つの心臓が、1920年代のドイツで製作されたナイトガウンに黒い糸で刺繍されています。私たちは通常ひとつの心臓しか持っていませんが、時折、例えば何かを決められない時や二つ以上のこと/ものを選びたい時、あるいは何かに名前を与えることが出来ない時に、二つの心臓がぶら下がっているような感覚を覚えることがあります。
私がこの時代に興味を持ったのは、ベルリンの日曜日の蚤の市を歩いていた時のことでした。その織物の質の高さに惹きつけられたのです。そのうち、私はそのような布を見つける度に、どのくらい古いものなのかと店員に尋ねるようになりました。最初は大体100歳くらい、と言われてもあまり信用しなかったのですが、そのうちに、どの店も同じことを答える、つまり100歳か、1910~1930年代くらいのもの、という答が返ってくることに気づき、これはもしかしたら信用出来るかもしれない、さらに、それはナチスドイツの台頭の直前の時代ということに気づきました。ナチスの前と後では、布製品の質の違いは明らかなものであるように思えました。そのことがあってから、何かに惹きつけられるように私はこの時代の布製品を集めだし、作品を作っています。
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山中慎太郎