
作品解説:
藍の歴史について、私は何も知りませんでした。パリで開催された「Majhi International Art Residency 2023」というレジデンスのキュレーションテーマによって、初めてその歴史に触れ、今まで私が見ていた藍色が違うものへと変化しました。今回私が素材に選んだのは、8世紀の日本最古の染物をモチーフとした、自身のデザインによる織物です。その織物から黒と青の糸だけを引き出し、刺繍を施します。それはまるで表面に覆われて見えなくなっていたものを抉り出すように。誰にもこの歴史上の問題の解決が未だ見出せていないように、私は未だ自分の作品に何を刺繍したら良いのかがわかりません。藍の歴史を読んでいる途中、こんな一文を見つけました。「In Bangladesh, the cultivation of indigo remains ‘taboo’, and the sites of old Indigo production (Nilkuthis) are often thought to be haunted.” = 「バングラデシュでは、藍の栽培はいまだに “タブー” であり、古い藍の生産地(ニルクティ)はしばしば幽霊が出ると考えられている」― 抉り出した藍色の糸で刺繍されるものは、おそらく幽霊のようなものになるでしょう。
この織物は作家自身のデザインにより、8世紀の「紺地花樹双鳥文きょうけち」(正倉院蔵)を引用して織られています。その古代の染物の模様の中に、現代を生きる私たちを取り巻く様々なシンボルが散りばめられ、それ自体が装飾の一部として存在しています。その現代のシンボルとは、コピーライトマーク、@マーク、原発のマーク、ピースマーク、クレジットカード会社のシンボル、遺伝子のイメージ、放射線照射済みマーク、子宮のイメージ、バイオハザードマーク、などです。これらのシンボルが、古代の文様の中に見え隠れし、共存しています。
Majhi International Art Residency 2023 にて制作(主催:Durjoy Bangladesh Foundation)