赤と青の格子柄の布から青い糸だけを引き抜き、その糸を元の布から切り離すことなくそのまま刺繍に用いています。刺繍の内側の格子部分には青い糸は残っていません。この刺繍のモチーフは、古代ギリシャ彫刻「幼いディオニュソスを抱くヘルメス」から引用されています。ヘルメスは、赤ちゃんであるディオニソスを布に包んで抱っこしていますが、その布の襞部分を抜き出して刺繍にしています。またこの作品は、「アポロン的とデュオニソス的」という対照にも言及しています。ディオニソス的とは混乱と不合理の象徴とされ、一方アポロン的とは合理性と秩序を表します。この整然とした格子柄をアポロン的と捉えるとしたら、その内部を崩してディオニソス的なものを共存させる、という試みです。
grid – ディオニュソスの布
2008 年
引き抜いた糸で刺繍,既製品の織物,絵画用木枠
41 x 27.3 cm(P6サイズ)
展覧会
2008 「手塚愛子展」第一生命ギャラリー個展、東京