目の見えない方、あるいは弱視の方も楽しめる美術作品を作って欲しい、という兵庫県立美術館からのオファーに応え作った作品です。通常「見ることの神殿」とも言える美術館で、目が見えない観者、目が見える観者、そしてわたしがどのようにこの美術館で交差することが出来るのかなと考えました。おそらく私の興味は、「目が見える人と見えない人の平等性をどのように保つか」ということにありました。
この作品は以下の四つの要素から成り立ちます。
1. 高さ3メートルから斜めに張られたネットに縫い付けられたストリングカーテン。ネットの上の点は点字になっている。観者はネットの下に入ることができ、ストリングカーテンに触れることができる。
2. 壁に貼られた点字の文章。この文章は作家自身が観者に向けて手紙のように書いたもの。触ることができる。
3. 二つの彫刻作品。この彫刻作品は美術館の所蔵品であり、通常触れながら鑑賞することができるもの。
4. ストリングカーテンで描く点字のための下絵。
この作品では、目が見える人は視覚的にこの大きなインスタレーションを見ることが出来ますが、点字の手紙の内容を知ることが出来ません(もし点字が読めなければ)。一方、目の見えない方はインスタレーションの姿は見ることが出来ませんが、彼らは手紙の内容を手で読んで知ることが出来ます。目の見える方、見えない方どちらもが、インスタレーションの中に入り、糸の感触を感じることができます。
展覧会の間、目の見える方が手紙の内容を知りたいとおっしゃっても、それは伏せられました。私がふだん、盲目の方が見ている世界を見られないのと同じように、目が見える人が美術館で見えないものがある、あるいは盲目の方にしか知らないことがあるという関係を作ることで、先ほどの「三者の交差点」が作れるかなと思ったからです。