1970年代、難民としてドイツに渡ったベトナム人女性が身につけていた、ひとつのブレスレットについて作品を作りました。
裕福な家庭で生まれた彼女が幼い時から身につけていたブレスレットは、難民としてドイツに渡った時には成長した彼女の腕から外せなくなっていました。ドイツでは掃除婦として働くことになった彼女は、お金持ちの家のガラスの家具を傷つけないために、その肌身離さず付けていたブレスレットを四つに割る決断をします。
私が彼女にそのブレスレットの写真を送るように頼むと、最初はもう姪にあげてしまったと言ったのですが、いや、やはりあげずにとっておいたと思い出し、その四つに割られたブレスレットを丸く組み直したり、バラバラにしたり、いくつかの種類の、そしてほとんど同じ構図の写真を、私の予想に反して繰り返したくさん送ってきてくれました。
何度も同じような写真を撮り送信する過程で、彼女のその時の記憶が溢れ出しているのだと私には思えました。裕福な家庭に生まれた自分が、今度は裕福なドイツ人の掃除婦として生きる新しい人生に諦めをつけたその決断が、ブレスレットを割る行為に象徴されているように思えました。私はその、一見同じように見えるたくさんの写真の全てを作品に使うことにしました。彼女のその決断の大きさが、無数の写真を撮る行為に表れているように思われたのです。
インスタレーションは、天井から床までの長い写真作品、刺繍、彼女と私のダイアローグを記したテキストからなります。
Photo by
金瑞姫