1930年代のドイツで製作されたカトラリーケースに、目隠しをしたまま何かを食べる女の子が刺繍されています。フクシマ以降、私たちが口に入れるものはコントロールされていて実は自分達で選ぶことが出来ないことに気づき、そしてその後に、私たちの身体や生命は常に何か大きなものに宙吊りにされている、という感覚に襲われました。
このカテラリーケースはもう90年近くも経っているものですから、シミやヤケなどがいくつもあり、布の端は破損しています。その見た目は決して綺麗なものではありません。私がこの時代に興味を持ったのは、ベルリンの日曜日の蚤の市を歩いていた時のことでした。その織物の質の高さに惹きつけられたのです。そのうち、私はそのような布を見つける度に、どのくらい古いものなのかと店員に尋ねるようになりました。最初は大体100歳くらい、と言われてもあまり信用しなかったのですが、そのうちに、どの店も同じことを答える、つまり100歳か、1910~1930年代くらいのもの、という答が返ってくることに気づき、これはもしかしたら信用出来るかもしれない、さらに、それはナチスドイツの台頭の直前の時代ということに気づきました。ナチスの前と後では、布製品の質の違いは明らかなものであるように思えました。そのことがあってから、何かに惹きつけられるように私はこの時代の布製品を集めだし、作品を作っています。
Photo by
山中慎太郎