Statement

閉じたり開いたり そして勇気について

ドイツの弁護士に、君は brave – 勇敢だね、と言われたことがあります。単身で外国でアートなんかをしていることが。確かに母語の国で家族と暮らす人にとってはそう見えるのかもしれませんが、私にはその言葉が妙に印象に残りました。

今回の新作は、長崎の出島を旅したことがきっかけとなっています。船しかなかった時代、死ぬかも知れないのになぜ彼らは危険を冒してまで海を渡り、知らないところへ行くのか。なぜ知らないものを見たいのか。私は弁護士に言われたことと出島を、なんとなく重ねて考えていました。開くことと閉じること、それに伴う勇気と好奇心について。

17世紀の鎖国に至った経緯と、江戸と明治の境目の開国の在り方が、私たちの現在の日本を決定づけました。海外から日本を見た時、その特殊性と近年さまざまな意味で閉じる方向に向かっている日本について、度々考えます。それはインターネットという仮想空間に翻弄されている現代人にとって、世界に向かって閉じること・開くこととはどのようなことだろうか、という問いとも重なります。

新作の織物には、鎖国以前の欧州の織物、出島の時代に作られた地図オランダ東インド会社のロゴ、隠れキリシタンの更紗模様、江戸ー明治期の作者不明のスケッチ、明治の開国時の英語辞書、欧州の時制を学ぶための時計、意思疎通のための絵文字、言葉によってAI画像生成されたイメージ、などが散りばめられています。謎解きのような、「読む織物」として。

 

手塚愛子
2023年12月